ZEPP TOKYO閉館によせて

自分にとって大切な会場だったZepp Tokyoが昨年末をもって営業終了を迎えた。信じられないほど時間が経ってしまったけれど、この会場との思い出をちゃんと残しておきたいので今更ながら思っていることを残すことにした。

natalie.mu

Zepp Tokyoと言って最初に思い浮かべるのはやっぱりあの真っ赤なロッカー。遠い昔愛読していたSHOXXだったか、フールズメイトだったかで、あの真っ赤なロッカーを背景に写真を撮っていたバンドマンがいたのを覚えていて、初めて会場に行ったとき「あのロッカーだ」と感動したことを覚えている。

そんなZepp Tokyoは私の人生において最も思い入れのあるライブハウスだ。人生で初めて「ライブ」を観たのがこの会場だったから。理由はただそれだけだけど初めてのライブには「それだけ」ではおさまらない、今でも色褪せることのないキラキラした思い出が詰まっている。だから最も思い入れの強いライブハウスなのだ。私の音楽人生はZepp Tokyoから始まったと言っても過言ではない。

 

満員だった1階フロアの上手2列目。客電が落ちたと同時にSEが鳴ってステージが水色の照明で照らされたあの瞬間の胸の高鳴りを今でも覚えている。メンバーを呼ぶ声の中ステージに姿を現したあのバンドは今はもう存在しないけれど、あの瞬間をくれたバンドは特別な存在だった。いや、今でも特別な存在だ。あの瞬間、私は、人生で一番音楽を愛していたと思う。

 

初めてライブを観てからある程度の年までは毎年必ずZepp Tokyoに足を運んでいた。本命のライブがなくとも、気になるバンドのライブであればとりあえず足を運んだ。私にとって「Zepp Tokyoでライブを観ること」自体が特別なことだったからだ。

それからそれなりに時間が流れてZepp Tokyo閉館の噂がたち、Zepp Diver Cityが開館し、そして私が好きだったジャンルのバンドたちはいつの間にかZepp TokyoからZepp Diver Cityに活動の場を移していった。それに伴って私もZepp Tokyoに足を運ぶことが少なくなっていった。それでもZepp Tokyoが閉館してしまうのでは?という不安はずっと心にあったので、機会があればどんな公演であろうとZepp Tokyoに足を運び続けた。いつ閉館を迎えても後悔しないように。

 

Zepp Tokyo閉館日決定のニュースをみたときはとうとうこの日がきたか…という気持ちだった。後悔しないようにとできる限り通い続けていたがいざ閉館が決まるとやはり寂しく思うものだ。観覧車を見上げながら上り下りしたあの階段も、会場入口の左側にある真っ赤なロッカーも、整列の際に誘導される会場裏も、番号が呼ばれるまで待機するあの入口前のスペースも、ドリンクカウンターでもらうドリンクホルダーも、ホールに入ったときのあの天井の高さも、2階席の椅子の硬さも、ステージの広さも、もう観ることが出来なくなってしまうのだな、と。

そう思ったら居ても立っても居られずとりあえずZepp Tokyoに行こうと思い、閉館のニュースが出たときにチケットが売っていた12月28日のDragon Ash公演のチケットを買った。その後、「Zepp Tokyo Thanks & So Long! FINAL」の開催も決定したので、そっちのチケットも買った(何故か一次先行でとれた。奇跡)。年末にまさかの週2でZepp Tokyo通い。結論最高だった。

 

12月28日は仕事終わりに駆け込む予定だったのだが、Zepp Tokyoに向かう電車内で急にスマホが動かなくなるというハプニングに見舞われた。おいおいおい今日電子チケットの公演だぞ?!と思いながらスマホを何度も何度も再起動させてやっとの思いで繋がったチケットサイト。これ以上スマホをいじったらどうにもならなくなると思ったので、チケットサイトの画面を表示したままとりあえず入場口まで走った。無事に入れたが、その後すぐスマホは完全に召された。つらかった。

しかしスマホを死んだままにするわけにはいかなかった。なぜなら12月31日も電子チケットでの入場だったからである。翌日29日は朝から仕事でスマホを修理に出す時間もなく「スマホがないお前はこの建物から一歩も出るな」と言われ、人権を失いながらなんとか仕事をこなし、30日に急いでショップに駆け込んだ。代用機を受け取った私は最強だった。

 

そして12月31日。最終日。会場入口を入った目の前には「Thanks & So Long!」のポスターを使って「ZEPP」の文字が書かれていたし、ドリンクカウンターの横ではZEPPグッズの物販が行われていた。記念に「Thanks & So Long!」ピックを2枚買った。それだけで泣きそうだった。

正直なことを言えばELLEGARDENは学生時代(10数年前)にjealkbが出演していた対バンイベントで一回観たきりだったし、BRAHMANに至ってはこの公演が告知されたときに初めてお名前を聞いたというレベルの、本当に「Zepp Tokyoのために来た」人間である。そんな私がこの場にいるなんて…と開演時間まで、いたたまれない気持ちでいっぱいだった。

この日は1階席5列目というなかなかにいい席で、センターに近かった。初めてこの会場にきた日にみた画角からステージを観ることは叶わなかったけれど、あのときと同じく開演前のフロアで天井を見上げた。初めてZepp Tokyoに来たときは「信じられないほど高い天井だなあ」と感じたが、この日はなんだかあのときほど天井が高いとは感じなかった。いろんな会場に足を運んでライブに慣れてきたからだろうか。

 

結論から言って、ELLEGARDENBRAHMANも最高だった。ELLEGARDENは10数年前に観たあのときから変わらないカッコよさだったし、大好きな「風の日」を聴くことができてとびはねる勢いで幸せだった。BRAHMANは演出全体に独特な世界観を感じられて良かったし、「Slow Dance」の演出がとにかくカッコよくて帰り道スマホが代用機だということも忘れてダウンロードで「Slow Dance」を買った。

 

公演が終わってからの規制退場。もうこの会場に来ることはないんだと思ったらまた泣きそうになったがとりあえず自分の番が来るまでこの会場を堪能しようとぐるりとフロア内を見渡した。

あの席に座ったことあるな、とか。あのライブはあのへんで観たけど前の人の身長が高くて全然ステージが観えなかったな、とか。ムックのライブでモッシュに巻き込まれて気づいたら同行者と離れ離れになったことがあったな、とか。ABCの主催対バンは運良くチケット取れたもののやっぱりこの規模じゃなかったな、とか。過去を振り返れば、この会場での思い出は尽きなかった。

そして退場の時。出口近くに会場のスタッフさんが並んでお客さんに向かってずっと「ありがとうございました」と繰り返していた。このときばかりは泣いた。むしろこちらが「ありがとう」という気持ちだ。ライブハウスがなければ生の音楽を体感できる場所はないわけで。Zepp Tokyoがなければ、もしかしたら私は音楽をここまで愛していなかったかもしれない。人生で初めてライブをみたあの時、会場がここだったから、いまの私がある。ここまで音楽を愛してこられたのは、あの時の胸の高鳴りと楽しかった思い出があるから。もちろんパフォーマンスをしていたバンドのおかげでもあるが、Zepp Tokyoのおかげでもある。

 

私は永遠に大好きなこの会場で、44アーティストのライブを観てきた。この数字が多いか少ないかは分からないけれど、どのアーティストのライブも印象的だった。楽しいこともあったし、悲しいこともあった。ぎゅうぎゅうのすし詰め状態だった公演も、少し心配になるくらいの動員だった公演もあった。時にはボールペンとノートを持って行ったこともあった。Zepp Tokyoは何時も私にたくさんの夢をみせてくれた。きっとこれ以上に愛おしいと思う会場はない。

 

ありがとうZepp Tokyo

 

natalie.mu